#Book [[👤内田樹]]さんの書籍 [[📚「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか？]]を読んで、成熟って何だろう？と思ったので、前々から気になっていた本書を読んだ。 大人とは何か、成熟するってどういうことか、組織や社会についていろいろ学べたし、どれも自分が思っていることと近くて大切にしたい1冊だなと思った。 これを読んで大人とは、「責任を引き受ける」、「集団が生き残ることを考えて行動できる」、「感謝ができる(贈与のサイクルを次に繋げていく)」、「仲裁できる」ということなのかなと思った。確かにこれらができる人は大人だと思う。 [[🗃️視座]]を上げるという話にも通じてくる。この中で自分は、責任を引き受ける、集団が生き残る、存続するということを考えて行動できたかは怪しい。この先10年は大人になれるようにしていきたい。 ## 第1章 社会の中で生きるということ ### 責任を取ることなど誰にもできない > 人に眼を抉られた人間は、相手の目を抉る以上の報復をなしてはならない」と、復讐の権利の行使を抑制しているのです。 💭法律では裁くという側面と、これ以上の復讐してはならないという限度を決めているという考えはなかった。 > 一度起きてしまったことを原状に復することはできないということです。人間は自分がひとたび犯した罪について、これを十分に償うということが決してできない。 > 責任というのは、誰にも取ることのできないものです。にもかかわらず、責任というのは、人に押しつけられるものではありません。自分で引き受けるものです。というのは、「責任を引き受けます」と宣言する人間が多ければ多いほど、「誰かが責任を引き受けなければならないようなこと」の出現確率は逓減してゆくからです。 💭責任とは何かを考えた。押し付けることはできず、引き受けるもの。自分にも責任があるという考えをみんなが持つことで、責任者は誰なのか？という話がなくなる。仕事でも、なんでも責任(自分も担っているという自覚)を持つことが大切なのかも。 ### 正義が成り立つ条件 > 正義の執行は「生身の他者の受苦を目の当たりにしたとき」に限定したほうがいい。 > 正義の執行が果たされるときの原則は、「個体識別をしない」ということです。 > 正義を執行する場面においては、正義の剣をふるう側は個体性豊かに描かれ、正義の鉄槌を受ける側は個体識別できないように平べったく記号的に描かれるという、表象の非対称性が生じるの。 > 復讐はエンドレスになります。個人が個人に罰を与えた場合には「正義」は成就しません。 > 暴力装置から「固有名」を消すことで、暴力の無限連鎖を断ち切ろうとしたのです。誰が殺したのか「わからない」というかたちで、この表象の非対称性は達成されていたのです。 ### ルールとの折り合いをつける > 今の日本は「夫婦仲が悪い」「母と娘は癒着している」「癒着した母と娘は父を侮り、場合によっては憎む」「父と息子はほとんどコミュニケーションがない」「母と息子はなんだか悲惨なことになっている」というのが「親子の定型」である。 > 人間とは私のようなものだ」と思っているのを「[[🗃️民族誌的偏見]]」と呼ぶ。 > 人間とはこういうものだ」という思い込みが、「それはあなたのところだけ」地域限定でしか通用しないということがたくさん（みなさんが想像していることの100倍くらい）あるんです。 > 親族間の好悪や親疎の感情でさえ、実は内発的なものではなく、ルールで外側から決められている。そのことがわからないと「ルールを運用することのできる人間」にはなれません。 💭社会集団ごとに標準形が決まっているというのは、そうなのかと思った。知らず知らずのうちにそういう型にハマっているのかと思うと恐ろしい。そう考えると、普通って怖いし、普通や周りの常識に沿って行動することって、必ずしも悪いことではないと思った。 #### 「スカート丈は膝下5センチ」という校則が存在する理由 > 弱いものは強いものに喰われて当然であるというルールでやっていれば、集団構成員はどんどん減っていって、最後はゼロになる。もっともゼロになるはるか手前で、集団構成員が減りすぎて弱小集団になった段階で、別のもっと強い集団に「喰われて」しまうでしょう。そういうものです。だから、集団として生き延びることを目的とした場合には、「誰も見捨てない」ということと、「どうやって集団全体の生命力を高めるか」を考える。 💭目的が大事。よくわからんルールだなと思うことも、強弱の差、貧富の差、美的センスの差を顕在化しないために制服がある。似た見た目にすることで集団が生き残っていくという、過去の知識が背景が言語化されないまま残っていると、謎のルール見たいな形で社会や、組織に残っていくのかもしれない。 ### フェアネスとは何か > フェアネスのさじ加減がわかる人間は「わりとフェアな社会」からしか生まれないということです。フェアな社会はフェアな人間を再生産する。 ### 日本を変えていくには > 自分が無意識のうちに仕組んだことを「きっとこうなると思っていた……」というふうに総括するのが「取り越し苦労」です。こういうのはよしたほうがいいですよ。 > 責任と決定権はバーターです。「責任を取る」と宣言した人間が決定権を取る。「こうなったのは、私の責任です」と名乗った人間に「これからどうするか」を決める権利が賦与される。そういうものです。「こうなったのは、全部おまえたちの責任だ」というセンテンスを最初にうっかり選んだ人は（たぶん気づいていないでしょうが）そのときに「後手に回る」立場を選んだことになります。そういう人はもう最後まで「決定権」を持つことができません。自分から放棄してしまったのですから。 💭この一節は刺さる。他責になるということは、自分が決定権を持たないこと、放棄していることを自ら決めていることになる。だから、責任を引き受けることが大切なのだと感じる。 ## 第２章 働くということ ### 労働とは不自然なものである > 人類史とは「人間にとって必要なもの」を作り出す工程の高度化・複雑化のプロセスではありません。残念ながら。そうではなくて、「人間にとって必要なものを作り出す工程の管理」の高度化・複雑化のプロセスだったのであります。 💭だから、言われたことをやっていくブルーカラーの職種より管理する側の方が給与が高いみたいなことがあるのだろう。 ### [[🗃️組織]]の最適サイズ > イギリスのオックスフォード大学の進化人類学の先生にロビン・ダンバーという人がいます。その人が、共同体の最適サイズについて、ずばり「150人」という答えを出している。 > 軍事行動の基本単位が中隊サイズというルールは、ローマ時代の「百人隊（centuria）」から現代までほとんど変わりません。 > [[🗃️組織論]]というのは「生き延びるための集団づくり」の知恵のことです。 > 僕たちの住む社会では、ほとんどの組織は「ともに集団を構成する人々の能力が低ければ低いほど、自分の利益が増える」ように組織が設計されています。 > 今の日本社会のように、「狭い集団内部で有限の資源を奪い合う弱肉強食の競争こそがリアリティなのだ」と信じている人たちが多数を占めるようになると、みんながお互いの生きる知恵と力の発達をどう妨害するかを競うことになります。 > 自分以外の集団構成員が愚鈍で無能であるほど、自己利益が増大するというルール」で構成された組織は、しだいに全体としても「愚鈍で無能なもの化」してゆきます。勝者の手に入る「賞品」もどんどん数が減り、みすぼらしくなっていきます。 💭個人主義に陥ることの危険さ。今は転職で組織に属するという感覚が薄くなっている気がする。そうすると自分がよければという個人的な考えになっていく。これが妨害を生み出して、組織というのは弱くさせていくのかもしれない。 ### 会社とは「戦闘集団」である #### グローバル企業は戦闘集団ではない (↑ 日本のリーディングカンパニー、グローバル化している企業を指す) 父性原理、男性原理の根本を成すのは、「復讐の原理」=> 「集団が高い戦闘力を発揮すること」が組織目標 > 必ず救ってもらえる。「二階に上げて梯子を外す」ということが絶対にないと信じられれば兵士たちは敵陣深く突っ込んでいける。このとき戦闘集団の戦闘力を支えているのは「信頼」なわけですが、それは戦友たちの個別の人間性への信頼というよりは組織を貫く「共傷性」というルールに対する信頼なのです。 #### 家族的な会社を選んではいけない > 『七人の侍』のような集団がそのプロトタイプです。そういう集団は実は「強者連合」ではありません。必ず中に「幼くて、非力で、使い物にならない若造」を含んでいる。それはその組織の「弱点」であるその「若造」をみんなで守る、なんとか生き延びさせるという目的を設定すると、[[🗃️組織]]のパフォーマンスが劇的に向上することが経験則として知られているからです。 > 入るべき会社は、未来を託すために若い人を大切にするという経験則を発見した会社 💭強い[[🗃️組織]]とはこういうことなのかもしれない。他者への思いがあると、信頼感が生まれて、結束し強い組織になっていく。誰かを育てるという考えは今の自分にはないので、こういう組織が少し羨ましい気持ちはある。 ### 「やりたいことをやる」だけでは人生の主人公になれない > 動詞に「当為」と「願望」の助動詞をつけて話すのが「子ども」で、動詞に「可能」の助動詞をつけて話すのが「大人」である。 > 「大人」というのは、自分が何ものであるか、自分がこれからどこに向かって進んでゆくのか、何を果たすことになるのか、ということを「自分の発意」や「独語」のかたちではなく、「他人からの要請」に基づいて「応答」というかたちで言葉にする人のことです。 他者の飢え、かわき、不安を癒し、安心させるものとして初めて「私」というものが出現する。 💭自分が知りたかった、大人とは何かがここに書かれている。 ### 執着と矜持を分かつもの #### 努力ができるのも運のうち > 「勉強ができる」というのはたしかにある程度までは（あくまで「ある程度まで」ですけれど）「眼が良くて遠くまで見える」とか「鼻が利いて遠くの匂いも嗅げる」とかいうのと同じような生得的な資質です。 > ですから、「努力ができるのも運のうち」なんです。そういう生得的な資質があったり、そういう後天的な環境があったりしているおかげで努力ができる。努力というのは自己決定できるものではありません。自己決定できる部分もありますけれど、全部じゃない。 💭[[👤マイケル・サンデル]]先生の[[🗃️能力主義]]的な話にも通じる。全てが自分の実力ではなく、運が良かったということも忘れてはいけない。 ## 第３章 与えるということ ### 格差論のアポリア > 自分が選択したこと、自分がやっていること、自分が考えていることの適切さについて第三者的、価値中立的な視点から吟味できないことを僕たちは「頭が悪い」と言います。そして、第三者的、価値中立的な視点から自分自身の推論や判断を吟味するというのは、言い換えると「自分の頭の悪さを点検する」ということなのです。 💭[[🗃️無知の知]]的なやつね。 ### 贈与のサイクルはどこから始まるか ### 存在していることの根拠を与えること > 何か価値のあるもの（メッセージや性的配偶者や財貨やサービス）を手に入れること」ではありません。ぎりぎりまで削ぎ落とした交換の本質は僕たちに「存在していることの根拠を与えること」なのです。 ### 贈与は主体的な行為ではありません > 贈与は自己を起源とする主体的な行為ではありません。贈与はそれ自体「すでに贈与を受けてしまったことの結果」なのです。 ### ああ、これは私宛の贈り物だ > 「これは私宛ての贈り物だ」と思う人が出現したことによって贈与のサイクルは起動します。きっかけはなんだっていいんです。「贈与された」と思う人の出現によって贈与が事後的に「あったこと」にされる。これは信仰の始まりと同じです。「神がいる」と思う人の出現によって「神」という概念は受肉します。神の存在を信じる人がひとりもいない世界に神はいません。いても何の機能も果たせないから。「造物主」という概念が立ち上がるのは、被造物たちのうちの誰かが「あ、私って、誰かに創造されたんだ」と思ったときです。それまでは「創造」という概念そのものが存在しない。 ### 目に映るすべてのことはメッセージ > このすべての贈り物に対して、「私も何かせずばなるまい」と考える。それが「市民的に成熟している」ということの条件だと僕は思います。 💭感謝することの大切さとはこういうことなのかも。自分が今あること、それは誰かの贈与(想い)によって繋がれてきたこと。そう思えるから、自分は次の世代に繋いでいきたいと思うのかもしれない。自分は成熟しているのかな、 ### 贈与の訓練としてのサンタクロース > 親から受け取った贈り物を返す相手は自分の子どもです。今から20年後、30年後に、自分の子どもに対して「サンタさん」の贈与の代行をする。そのことによってしか贈与への反対給付は完成しません。 ### 大人になるとは > 「あの人は大人だ」という言明については、他人は絶対にその選択の適否についてコメントしてはいけません。というのは、「あの人は大人だ」というのは、単なる事実認知的言明ではなく、「私はあの人をロールモデルにして、これから人格陶冶に励むつもりだ」という遂行的誓約でもあるからです。 > 「私にとっての大人」というのは、一種の作品なんです。「創造」と言ってもいい。なにしろ「理想我」なわけですから、どんな「ありえないもの」だって構わないわけです。むしろ、「私にとっての大人」像にどれくらいオリジナルで、個性的な像を描き出せるかを僕たちは競っているのかもしれません。 > 僕は「ささやかだけれど、大切なこと」に対して無言で祝福を与えるような人を「僕にとっての大人」だと思いました。 💭ここは著者の大人とは何かという考え方。大人って人それぞれイメージは違うもので、それぞれ僕にとっての大人像を言語化しておけると面白いかも。 ## 第4章 伝えるということ ### 最近の人がすぐにバレる嘘をつくのはなぜか > 足場を作ってくれたのは先人たちです。そこから出発できることについて私たちはまず感謝の意を表すところから始めなければいけません。自分の手柄について言い立てるのは、その後の話です。しかし、現代の人はもうこの「多細胞生物」を主体性の拠点とするという思考上の習慣を失ってしまいました。 ### 青年がいた時代 > 彼らはもう「青年」になる必要がありません。欧米と日本、旧時代と新時代を架橋する必要もない。ですから、「こまっちゃくれた子ども」の後はそのまま「幼児的なおっさん」になるというコースをそれからみんなたどるようになったのです。 > 青年というのは、旧時代と新時代、欧米と日本を架橋するだけでなく、「子ども」と「大人」を架橋する存在でもあります。子どものような初々しさ、理想主義、無垢さ、羞恥心を持ちながら、大人たちに立ち交じってそれなりに交渉ごとをしたり、仕事で力を発揮したりする社会的能力も持っている。それが「青年」です。 💭DYGLのライブであった、純粋と無垢のその間にいるみたいな話だなと思った。 ### 教育とは「おせっかい」と「忍耐力」である > 教育の受益者は「本人」ではありません。共同体そのものです。だから、「おせっかい」な人が出てくるのです。あれは道楽でやっているわけじゃありません。「共同体を生き延びさせるため」に必死でやっているわけです。自分のところの共同体が生き延びてくれないとさきざき「自分自身も困る」ことがわかっているからしかたなく「おせっかい」をしているのです。 > 集団があと100年、200年生き延びるために今ここで何をすべきか。それが「わかる」能力を身に付けてもらうのが教育の本義であり、それ以外のことはすべて副次的なことにすぎません。「学ぶとこんな自己利益があるよ」という利益誘導で学習努力を基礎づけようとする試みは本質的に失敗を宿命づけられています。 > 教える仕事はもうひとりでは担えません。転職したり、異動したり、リタイアしたり、あるいは死んだりしたあとも「後を引き継いで教え続ける人」たちと共同作業をしないと教えるという仕事は完遂できません。その意味で、教えるという仕事は本質的に「共同作業」なのです。 ### 子育ては誰にでもできる > 「どうだいここはひとつナカとって」という言葉を「言わなければいけない立場」に立った人間のことを僕たちの世界は「成熟した人」とみなします。 > 「人は知っている者の立場に立たされている間はつねに十分に知っている」ラカンの言葉を借りて言えば、「人は仲裁する立場に立たされている間はつねに仲裁することができる人間である」ということです。「仲裁できる人間」が「大人」です。つまり、成熟というのは、「仲裁する立場に立たされること」なのです。 > 両親の育児戦略は違うんです。違って当然だし、違うほうがいいんです。子どもが葛藤するからです。仮に親がまったく同じ方針で子育てをした家庭があったとすれば（さいわい、なかなかそういう家はありませんけど）、そこは子どもにとって「地獄」でしょう。 > 子どもは葛藤のうちで成熟します。だから、適切な葛藤のうちに放置しておけばいいんです。父親が「ああしろ」と言ったら母親が「あんなこと言ってるけど、無視していいのよ」とささやき、母親が「そんなことしちゃダメ！」と叱っても父親が「母さんに見つからないところでやればいいんだよ」と悪知恵を授ける。そういうのがいいんです。 ### 愛国者とは誰のことか > 「愛する」という行為は理解と共感の上にではなく、「理解も共感もできないもの」に対する寛容と、そのような他者に対する想像力の行使の上に基礎づけられたほうが、持続します。